2月13日 

 此処は、ネルフ内にあるとある科学者の部屋。

 部屋には蒼髪の少女と金髪の女性、そして少し紫色が混ざっている感じ髪の女性が居る。


 「あの博士。バレンタインって何の事でしょうか...」


 蒼髪の少女、綾波レイがこの部屋の主である赤木リツコに聞く。

 だが、リツコとこの部屋に遊びに(仕事をサボりに)来ていたミサトは口を半開きにして呆然としていた。





バレンタインSS

チルドレンのバレンタイン事情


BY ゴ〜ヤ





 事の始まりはとあるスーパーであった。

 
 正月ムードもすっかり抜け、

 街が何時もの様に活気に満ちていた。


 既に2月も中盤だが昔の様な寒波はセカンドインパクトの影響で来る事は無く、

 日本中が真夏日のような状態であった。

 しかし、それでも着実に戻って来ていると専門家たちは言う。

 

 2月に入ると町のあちらこちらにバレンタイン、という単語があふれていた。

 そして道行く女性たちもその事について話す人が増えていった。

 レイもそんな街の状態や道行く人達の話を耳にしていた。

 だがレイはバレンタインなんて言葉は知らない。

 いや、読んでいる本に一度だけ出て来た事があるが意味も分からずに飛ばしていた気がする。

 学校の話題も最近ではその事ばかりであった。


 
 
 レイは残念ながら、まだクラスに溶け込むことができていない。

 唯一、話すとなればシンジ、アスカ、委員長のヒカリぐらいだ。

 彼らに聞いても良かったのだがそれよりも人生経験が豊富である人が身近に居ることを思い出した。 

 そこで話の冒頭に戻る事になる。


 「...ふぅ〜ん、レイもようやくそういう事が、気になる様になったのねぇ。

  良かったじゃない、リツコ。

  あんたが其処まで気を使わなくても、レイはしっかり成長しているみたいよ。」

  
 部屋に居た、ミサトが茶化す。

 だが、レイには何の事かサッパリ分からない。

 
 「リツコ、そんな困る事じゃないでしょうさっさと教えて上げなさいよ。
 
  ...って、リツコ? どうしたの、お〜い...」


 ミサトがリツコの目の前で手を振るが反応は無い。

 どうやら、気が何処かへと飛んで行ってしまった様だ。

 ―― こんな程度の事で気が抜けるとは、親友とはいえ情けない気がするわ...はぁ ――

 ミサトは、心の中でそう呟く。

 
 「レイ、バレンタインってのはね、

  2月14日に好きな男の子にチョコレートを上げる物なの。」

 「好きな男の子...チョコレート...」

 
 レイは、微妙に顔を赤らめながら呟く。

 そんなレイの変化を感じながらもミサトは説明を続ける。


 「そして、チョコレートをあげると共に自分の気持ちを伝えるの

  『好きですっ!』てね。」 

 
 ミサトは、ウインクをながらレイに最後の言葉を言った。

 その瞬間『ボンッ』と音がしそうな位勢いよくレイの顔は赤くなった。
 
 ―― あらら、レイったら真っ赤になっちゃって ――

 
 「レ〜イ? そんなに真っ赤になっちゃってどうかしたの〜?
 
  もしかして、シンちゃんの事でも考えていたのかなぁ。」 

 「...碇君。」


 何故だろうか、シンジの事を考えるだけで身体中が熱くなる。

 それも顔を中心に。

 それに脈拍も上がっている様だ。

 特に最近になってからだシンジの事ばかりを考える様になったのは。

 学校の教室でも授業中にも関らずシンジの方を見つめていたりしている自分を思い出す。

 
 「...あの、ミサトさん。 一つ聞きたい事が有るんですが...」

 「なあに、レイ?」

 「私、変なんです。碇君の事を考えるとここがドキドキして来て何も考えられなくなります。

  しかも、気が付いたら碇君の方を見ている...これって一体なんでしょうか。」

 
 レイは左胸に両手を添えて話す。

 顔は俯き加減で、微妙ながらも頬を紅く染めて話す。

 まるでクラスで二人きりになった少女が好きな人のことを打ち明けるかの様に。 

 
 ミサトは正直驚いていた。
 
 使徒大戦中は感情の欠片も見せなかったレイが此処まで成長するなんて。

 リツコはこの事で気を失っているが(現在も)、確かに驚きだ。

 レイに此処まで感情を与えてくれたのは紛れも無くシンジのお陰であろう。

 
 「レイ、それは貴女がシンジ君に恋をしているからよ。」

 「恋...」

 「そうよ。要するにきっと貴女はシンジ君の事が好きなのよ。」

 「・・・・・・」

 
 レイは、一体この気持ちを如何すれば良いか分からなかった。

 この気持ちが例え好きと言う感情であってもそれから如何するべきかが分からない。

 そんなレイを見てミサトは優しくレイに伝える。

 
 「レイ、何で今日貴女は此処へ来たの? バレンタインデーというのが何か気になったからでしょうが!

  このイベントを使ってシンちゃんに伝えるのよ。

  『私、綾波レイは碇シンジ君の事が好きです。』てね。」

 
 なんか話が突拍子過ぎるが、とにかくレイに告白をさせようというのである。

 が、ミサトには一つ思い当たる事が有った。

 今家でシンジにあげる手作りチョコを作っている人が居るのであった。


 「レイ、今すぐ家へ帰ったらどう?

  多分あの子が今チョコレートを作ってると思うから。

  一緒に作ってシンジ君に渡したらどうかしら。」 
  
 
 ちなみに今レイはミサトと同居している。

 と言っても残り二人のチルドレンも一緒に住んでいるのだが。

 
 レイは初め、誰の事を指しているのか分からなかった。

 が、直ぐに同居人の内の一人が頭に浮かんだ。

 
 「まさか...あの人も!?」

 「ええ、多分ね。おそらく洞木さんに教えて貰いながらでもやってるんじゃないの?」

 
 レイの顔が急に引き締まった。

 
 「済みません、帰ります!」
 
 「ええ、行ってらっしゃい。リツコには私が事情を話して置くから。」

 「有り難う御座います...」


 シュン、という音を立ててドアが開きそして閉まる。

 ミサトの目にはレイが慌てている様にしか見えなかった。
 
 まるで、出遅れてしまった人の様に。

 そして未だ沈黙している親友に向かって呟く。


 「貴女の子はしっかりと育ってるよ。
 
  あの子達は大人の手を借りずに成長して行っている。

  本来ならば私たちが育てて行くはずなのにね。

  でも、そんな環境を作ったのも私たち大人なんだよね...」

 
 そう言いながら、ミサトはレイの出て行った扉へと目を移す。

 
 「頑張りなさいよ、私達の妹よ!」



 
 
 
 その頃コンフォート17にある葛城家では、

 先程のミサトの話に出てきた人物が明日へと迫るバレンタインの準備をしていた。

 この部屋の同居人の一人惣流・アスカ・ラングレーとその親友、洞木ヒカリである。


 事の始まりは数日前。

 ヒカリがアスカにバレンタインの事を聞いたのが始まりだった。

 しかし、アスカはバレンタインなんて物は知らずただ周りが浮ついているかなぁと思ったぐらいだった。

 そこでヒカリは日本のバレンタインは何たるかを教えたのだ。

 それを聞いたアスカは大慌て。
 
 最近ようやくとある人物が好きだと言う事に気づいてよしこれからだ、という時にこのイベントだ。

 ここで何とかしないとポイントなんて稼げるか、と言う事で今に至る。

  
 現在チョコ作りに必要な道具、材料は全てテーブルの上へと広げられている。 

 アスカ、ヒカリ共にエプロンをしていつでも料理ができる体勢に入っている。

 しかしヒカリの表情はヤル気満々といった感じなのに対し、

 アスカの表情は優れない。不安の色が表情に出ている。


 「じゃあアスカ、作り始めるわよ。」

 「ちょ、ちょっと待ってヒカリ。

  お店で売ってるやつじゃ駄目なの?」


 アスカには普段の威勢は無くただ不安ばかりある少女と同じ状態になっている。
 
 そんなアスカを見てヒカリは、『どんなに威勢が有ってもやっぱり女の子ね。』と、思いつつ

 アスカに叱咤を与える。


 「今更何を言ってるの!

  アスカだって知ってるでしょう、碇君が女子の間で人気があるって。

  そんな所で愛の籠っていない既製品なんてあげてどうするの?

  きっと他の子だって手作りで勝負をして来るわよ!」

 「う、うん...
 
  でも私、料理なんかした事無いわよ。」


ヒカリの叱咤も虚しく、逃げ腰のアスカ。

 そんなアスカを見てヒカリは溜息を吐く。

 
 「はぁ、何の為に私が此処に来たと思うの?

  多分出来ないだろうと思ったから来たんじゃない。」

 「ありがと...」


 アスカは小さい声で、しかしハッキリと言った。
 
 
 ヒカリは最近のアスカの変わりようには驚いていた。

 最初こっちに来日した時はただ単に活発な威勢のいい少女が来たとしか思わなかった。

 だが使徒戦を終え、

 長い入院生活から戻って来た時からは自分を素直に出している様に見えるのだ。

 ―― アスカをこんな風にしてくれたのは、碇君のお陰だもんね。 ――

 ヒカリは心の中でそう呟く。

 
 アスカは量産機戦の影響でサードインパクト後、ボロボロになって発見された。

 病院に搬送された後、その看護をしていたのがシンジであった。

 最初はシンジの看護を拒んでいたアスカであったが何週間、何ヶ月とお見舞いは続けられ、やがて落ち着いていった。

 途中からシンジと一緒にレイも来る様になったが、ただシンジに付いて来たと言う感じでアスカも気にしてはいなかった。

 
 しかしある日シンジが中々来ないと思っていたら予想外な事にレイ一人でアスカの病室へとやって来たのだ。


 アスカは正直に言うとこの少女の事が苦手だと思っていた。

 使徒戦の最中には『人形』と言った事もあった。

 しかしそれは嘗ての自分と重ねていただけで、昔の自分を見ているようで嫌なだけであった。

 この入院生活でその事を実感出来る様になった。

 シンジと一緒にいるレイは同性の自分から見ても可愛いと思える位に表情を変える。

 それは、本当に微妙なんだが。

 アスカはそんなレイを見て悟った。

 ―― この子は、私と同じでシンジの事が好きなんだ。 ――、と。

 
 不思議な事にシンジがこの後にアスカの病室に来た時には二人で談笑をしている位であった。

 何が起こったのか分からないシンジに二人はこう言ったのだった。

 
 「フフフ、これじゃこれからも大変そうね。」

 「ええ、本当に。」

 
 と、二人で顔を見合わせながら言ったのであった。

 
 この後、急にレイが葛城家の同居人になるのが決まったのだった。

 家だけでなく学校でも二人は昔からの親友であったかの様に過ごす様になった。

 シンジは二人の仲が良くなったのはいい事だと思っているが、

 時々自分の方を見ては溜息を付く事が増えたのだけは奇妙に思っていた。

 鈍感シンジ此処に有り...


 ちなみにシンジは親友の鈴原トウジ、相田ケンスケと一緒に何処かに出かけている。

 誰がその様に仕向けたかは...秘密だ(笑)


 

 話は随分と逸れたが
 
 ヒカリとアスカは漸くチョコ作りに取り掛かろうとし始めた。

 
 その時、玄関の扉が勢い良く開いた。
 
 入って来たのはレイだった。
 
 急いで帰ってきたのか頬を赤くし、肩で息をしている。

 
 「お帰り、レイ。そろそろ来ると思ってたわよ。」

 
 アスカがコップに水を入れながらレイに声を掛ける。

 そして水の入ったコップをレイはアスカから受け取るとゆっくりと飲む。

 
 「...ありがとう。」

 「どういたしまして。

  リツコに聞いてきたんでしょ、バレンタインの事。」

 「博士は教えてくれ無かったわ。
  
  代わりにミサトさんが教えてくれたけれど...」

 
 その台詞を聞いてアスカは額に手をやる。

 
 「ミサトに聞いたの!? なんて言ってた?」

 「...チョコレートを好きな人にあげて『好きです』って告白する。って言ってた。」


 アスカはそんなレイの言葉に胸を撫で下ろした。

 
 「良かった、また変な事を教えたかと思ったわ。」

「変な事って?」

 「い、いやなんでもないわよ...」


 アスカは焦ったかの様に答える。

 どうやらアスカもバレンタインについて聞いた様だがとんでもない事だったらしい。

 その後にヒカリに確認したら案の定適当な事を言っていたみたいだ。


 「じゃ、レイも早く準備して。」

 「うん。」


 準備、と言っても既に準備の殆どはされている為にエプロンを着ることしかないのだが...

 
 「じゃぁ、始めましょうか!」


 ヒカリの声で、明日の決戦に向けて始動する。


...

......

 
....〜 調理中 〜 ....

......

...



 「出来た...」


 三人の少女達の前には今作ったばかりのチョコ(ラッピング済み)が置かれている。

 しかし数が合わない。

 テーブルの上には二つしかない。

 作った人数は三人...


 実はレイとアスカは2人で一つにしたのだ。

 本当は一つずつ作るつもりだったのだが、アスカの度重なる失敗により一緒になってしまったのだ。

 まぁ、告白するためではなく自分たちの関係を改めて確認する為だと思えば諦める事が出来たのだった。


 ちなみにヒカリが誰に作ったのかは...後に分かるであろう。




 その夜。

 夕食を終え、風呂にも入り一息付いていたシンジにミサトが声を掛ける。

 
 「シンちゃん、明日はこの紙袋を持っていきなさい。」


 と言ってミサトが渡して来た物は一体にどんな量が入るのか分からない位の大きさの紙袋。

 シンジは出された紙袋に取ると不思議そうな顔をした。


 「あの、何でですか?」

 「明日になれば、きっと分かるわよ。」


 ミサトが答える。

 ちなみに、ミサトの左手にはビール(エビチュ)が握られている。

 
 シンジはこの紙袋を何に使うのがさっぱり見当もつかなかった。

  
 レイとアスカはリビングで二人にやり取りをTVを見ながら聞いていた。

 途中で、ミサトが変なことを言い出さないかとても心配だった。

 しかし、それも杞憂に終わり少しだけ安心した。

 
 2人は明日の決戦に向けて早めに休む事にした。

 自分たちの思いを思い人へと伝えるために...




 

 

 バレンタインデー、2月14日当日。

 葛城家の朝はいつも通りに始まった。

 
 朝早くからシンジは朝食を作り、時間になったら女性陣を起こしに行く。

 彼女らは朝に非常に弱いため、シンジが起こさないとなかなか起きないのだ...

 一部は起こしに来るのを待っている様なんだが...
 

 
 朝食を終え、学校へ行く準備も終わった。

 
 「行って来ます。」

 「行ってらっしゃい。」


 ミサトは三人に言う。

 そしてシンジが先に出て行ったのを見るとミサトはアスカとレイに耳打ちする。


 「いい、二人とも。

  きっとシンジ君は幾つもチョコを貰って来ると思うわ。

  でもそんな物は気にしちゃ駄目。最後には貴女達が勝つのだから。」

 「そんな事分かってるわよ。ねぇレイ?」

 「ええ、勿論。」

 
 意外とスッキリした顔で答える二人。
 
 もしかしたら不安になっているかも知れないと考えていた為、声を掛けたのだが関係無かった様だ。


 「そう、分かってるならいいわ。

  とにかく今日は不安になっては駄目。強気で居なさいよ、二人とも!」

 『分かったわ!』

 
 アスカとレイは口を揃えて言うとシンジを追いかける為、走って家から出て行った。






 通学路で三人はいつも以上に話した。

 まるでレイとアスカがシンジの注意を自分達に向けるかの様に。

 シンジはそんな二人を見て変だなと思いつつも、普通に接する事にした...

 

 シンジ御一行が学校に着くとアスカとレイは『先に行ってるから』と言い残し、昇降口の方へ走って行ってしまった。

 ―― やっぱり変だ、何時もだったら一緒に行くのに... ――

 シンジは釈然としない気持ちのまま、自分も昇降口に行く事になった。

 
 が、アスカとレイが居なくなったのを機にシンジの近くにいた女子生徒達がシンジの元へと殺到した。

 あの二人が居ると何されるか分からないから直接渡すのを止め様かと考えていた者達だった。

 
 ...「碇君これ受け取って。」、「碇先輩これ上げます。」、「はいこれ。」...etc. etc.

 
 この一騒動が終わる頃にはシンジは両手一杯にいろいろなラッピングが施されたチョコ(+カード)を持っていた。

 あっと言う間の出来事なので何が起こったのか分からない、という感じでシンジは立っているのだった。


 シンジは取り合えず昨日の夜、ミサトに渡された紙袋にチョコを丁寧に入れて置く事にした。

 チョコの入った紙袋を持参のまま昇降口に入ったシンジだったが、次の恐怖が待ち構えていた。

 



 何時もの様に下駄箱を開けるとその中に詰め込まれていた物が雪崩の様に出てきたのだ。

 ゆえに、シンジの足の周りには綺麗にラッピングされたチョコレートが大量に...

 何が起こったのか分からないシンジであったが、取り合えず落ちた物を紙袋に入れていくのであった。

 ―― 今日って、なんかあったっけ? ――

 
 「お、センセ。朝から大変やな。」

 「な、トウジ。俺が言った通り碇は大量に貰っているだろう。」

 
 シンジが、落ちたチョコを拾いながら今日は何の日か考えていると親友のトウジとケンスケが登校して来た。

 
 「あ、おはよう。二人とも。」

 「おはようさん。」

 「おはよう。」


 シンジは顔を上げると朝の挨拶をした。

 そして相手が返事を返すのを確認すると再び拾う作業に入る。

 それを見ていた二人であったが、何も言われなくてもシンジを手伝い始めた。

 
 「別に手伝わなくて良いのに...」

 「気にするなって。」

 「そやそや、俺らは親友やろうが。」

 
 シンジは親友二人に心の中で感謝をした。

 
 
 チョコを入れ終わると三人は一緒に教室へと向かった。

 
 「そういえば、今日は惣流と綾波の姿が見えないがどうかしたのか?」

 「う〜ん、実は僕も良く分かんないんだよね。

  なんか学校着くなり先に教室に行っちゃったし。」

 
 ちなみに、ケンスケはアスカとレイがシンジの事を好いていると言う事を知っている。

 その事に気付いていないのは本人のシンジと、トウジだけである。

 
 三人は、他愛の無い話をしながら教室へと向かう。

 途中三人(シンジ)の方を見る女子生徒がいるがそんな事を気にしないで歩いて行くのであった。

   
 
 

 シンジ達はいつも通り級友に向け挨拶をしながら教室に入っていった。

 アスカとレイ、ヒカリは既に来ていて三人で集まって話をしていた。 

 シンジは二人とは席が少しだけ離れている、自分の荷物を机に置くために一人になった。

 
 シンジは自分の机の現状を見て手に持っていた荷物を離してしまった。

 机に上には又してもチョコが置かれていたのだった。

 
 しかしシンジは断れない性分故、何とか気を持ち直すとまた紙袋へと入れて行くのだった。


 そんなシンジの姿を見て机の上にチョコを置いたクラスの女子は嬉しさと恐怖に駆られるのだった。

 前者は言われずともシンジに受け取って貰えると言う幸福感から。

 後者は未だに行動を起こさないアスカとレイに向けてであった。

 
 シンジ、アスカ、レイの関係は学校公認になっている。
 
 だからシンジに渡すのは止め様と思った人も多かった。

 しかし意外とアスカとレイは何も起こさないのだった。

 一応持ってきて正解だった、という人と。

 持って来れば良かったと思う人もいた。

 
 だが、何時この二人が自分達に何かをして来るのではないかと恐怖に怯えるのだった。

 結局、朝の登校時には何もして来なかったのだが...


 
 ちなみにトウジの机には手紙が一通入っていた。

 ケンスケの机には何も無かったんだが...

 
 「チ、チクショ〜! 何で俺だけ...。」


 済まない、ケンスケ。

 筆者の心の中では君は貰えないものだと思っているんだ...



 バレンタインとは関係無しに授業は進んでいく。

 しかし、クラスの様子を見てみると男子生徒には落ち着きが無いようだ。

 そんな中でもいつも通り落ち着いているのはシンジとトウジであった。

 シンジは未だにバレンタインデーという存在を知らないから。

 トウジは...寝ているため。

 

 
 
 その後の学校生活はいつも通りに過ぎていった。

 ただ、昼休みになると普段とは違いあちらこちらで二人きりで会っている男女の姿が見られた。

 それを遠くでハンカチを噛みながら悔し涙を流す男子の姿も見られるのだった...




 そんなこんなであっと言う間に放課後...

 HRも殆ど連絡も無かった為、直に終わった。 

 バレンタインも昼休みで殆ど終っているのかその話題を出す者も少なかった。

 しかしこれからだと言わんばかりに、好きな男子を誘う女子も少なくは無かった。

 
 
 アスカとレイは、HRが終わると直ぐにシンジの所へ行き、

 シンジを急かしながら帰っていった。



 そう言えばアスカ達と一緒にヒカリもチョコレートを作っていたが誰にあげたのであろうか。

 実はヒカリは朝早く学校へ行き、気になる人の机の中に入れて置いたのだ。

 アスカは直接渡せと言っていたのだが、流石に恥ずかしいらしく、手紙と一緒に入れて置いたのだった。









 さて、シンジは美少女二人に引っ張られる様に帰ると家に入るとまず一声にこんな事を言われるのだった。

  
 『夜ご飯作って。』

 
 と。

 急いで帰ってきた意味が分からなかったのだが言われた通りに作り始める。

 その間にアスカはシンジが貰ってきたチョコを整理し、

 レイはシンジの手伝いをする。

 
 ―― いつもはこんな事をしない(特にアスカ)のになんで今日は...――

  
 シンジは複雑な気分で料理を続けるのだった...

 
 その日の夕食はシンジ特製の肉じゃがを含む全四品。

 どれも素晴らしい盛り付け方である。

 三人は箸を手に持つとユニゾンしながら『頂きます』と言ってから食べ始める。

 アスカとレイ、二人共『おいしい』と盛んに口に出しながら食べている。

 シンジは自分の作った料理を褒められる事が嬉しいのか終始笑顔であった。

 
 ......


 食事を終えるとアスカ、レイという順番で風呂に入り今は二人でテレビを見ている。

 その間にシンジは料理の後片付けと洗物をしている。




 「そういえば...」 

 
 シンジが急に何かを思い出した様に近くに有ったのか、タオルで手を拭きながらキッチンから出てくる。

 
 「今日、色々な人からチョコレートを貰ったけれどなんか特別な日だったかな?」

 
 ―― えっ? ――

 アスカは顔だけのシンジの方に向ける。
 
 レイはどうやらテレビに熱中している様だ。シンジの言葉にも反応しない。

 今見ている番組は動物特集らしく世界各地の珍しい動物とかいう見出しが表示されている。

  
 
 アスカは急にシンジに聞かれたので何の事か分からなかった。

 しかしそれがバレンタインの事を指している事が分かった。

 何と無く何時か来るであろうと予想していた質問だったが、

 本当に今日が何の日か分からないとなると何故か悲しいところがある。

 
 「シ、シンジ? 本当に今日が何の日か分からないの?」

 「え? う、うん...」

 
 ―― はぁ。 ――

 アスカは心の中で溜息を付くとシンジに大雑把な説明をする。

 
 「シンジ、今日はバレンタインデーって言う日なの。

  その日は、女の人が好きな男の人に自分の気持ちと一緒にチョコレートを渡す日なの...」


 最初のフレーズは成る程、と言った感じで半分聞き流したシンジだったが、

 後半の部分を聞いて行くにつれて顔が少しずつ赤くなって行くのがアスカには分かった。

 
 「って言う事は...」

 「まあ、アンタも予想はついたと思うけれど告白する子が大半よ。

  たくあれだけのチョコレートを貰って置いて、

  プラスでカードもセットだったって言うのに気付かないかな、この鈍感シンジは...」


 後半の部分は小声だったが大体シンジも分かる位の事は説明した。

 
 シンジの表情が納得した表情になったのを見て取るとアスカは一安心した。

 そしていまだテレビに熱中しているレイに肘で突くと小声で話し掛ける。


 「レイ、そろそろ渡してもいいんじゃない? シンジもバレンタインの意味が分かったみたいだし...」

 「そうね...」

 
 しかしレイはまだテレビに熱中している様だ。

 
 「そうね、って...レイ聞いてるの?」

 
 後半の部分を強めにアスカは言う。

 それで漸く分かったのか、レイがアスカの方へと顔を向ける。

 
 「それで、私がさっき言った事分かった?」

 「...(ふるふる)」


 頭を振ってレイは返事をする。 
 
 やっぱり聞いてなかったのか、と言いたげなアスカの表情だが此処で怒鳴っても話しが進まないだけなのでもう一回説明する。

 
 「だから、シンジにもうそろそろチョコレート渡しても良いんじゃないって話。」

 「そうね、今の内に渡して置かないと碇君寝てしまうかも知れないし...」

 
 そうレイが言うと、アスカは頷きながら自分の部屋へと向かい

 簡易冷蔵庫(と言っても発泡スチロールの箱に保冷剤を入れただけだが)から丁寧にラッピングをしたチョコレートを取り出す。

 自分の後から付いて来たレイを確認すると目線だけで頷きあいシンジの元へと行く...



 
 
 アスカにバレンタインのことを説明してもらった後シンジは少し浮かない表情をしながら風呂に入っていた。



 ―――さっきのアスカの話ではバレンタインには好きな人にチョコレートを渡すものだって言っていた。

 それだけ、皆から好かれている事は昔の僕からは考えられない事であり、正直言ってありがたい。

 
 ―――だけど良く考えてみろよ、僕はあの二人から貰っていない。

 って事は二人からは何も思われていない。

 それどころかもしかすると嫌われてる!?

 今まで一緒に過ごして来たのに...


 ―――でも、考えてみると無理が有るかもしれない。

 いくらアスカが僕に対していい表情で笑う様になったからって心の中では嫌っているかもしれない。

 それはそうか、使徒と戦っている時は散々言われたもんな。

 たとえ入院生活中に色々とやって上げたからってあれも結局、僕の自己満足だったんだな。

 
 ―――綾波は...そういう事知らないだろうな。


 シンジは湯船に入りながらずっと2人の事を考えていた。
 
 だが、シンジがいくら考えても意味は無い。

 結局それを実行するのは二人なのだから。



 考え過ぎと、湯船の中にずっと居たせいかシンジはだんだん視界が闇に染まって行くのを感じた...




 「行くよ、レイ。」

 「ええ。」


 二人はシンジの部屋の前に来るとそうやって最終確認をする。

 アスカの手にはシンジに渡すチョコが有る。それを後ろで隠す。

 それによりアスカは手が使えない。故にレイがシンジの部屋の戸をノックすることになった。


 コンコン...、コンコン...、コンコン………


 だがどうだろうか、何時までやっても出て来ない。返事も来ない。

 おかしいなと二人は思い一応シンジの部屋を開けてみる。

 誰も居ない。

 布団の中に居る様子も無い。

 あれ、と思ってリビングに戻ろうとした時だった


 「どうしたの二人共?」

 
 風呂上りです、と言う感じに片手にタオルを持ち、頭を拭きながら登場したシンジ。

 予想外の展開に戸惑うアスカとレイ。

 アスカは持っていたチョコを慌てて自分の影へと隠すとシンジの方を向く。

 
 「なんか様?」

 
 少し不機嫌そうな声でシンジが言う。


 「あ、あのね...」

 「碇君にチョコを持って来たの。」

  
 少々恥ずかしそうに言おうとしたアスカの横からしっかりとした口調で言うレイ。

 そんなレイの発言に対しアスカは...


 「あ、あんた馬鹿ぁ!そんなストレートに言うことないじゃないの!」

 「貴女に言わせたら何時まで経っても話が進まないと思ったからよ。」

 
 うっ、といった感じで少し引くアスカ。

 確かにそれは言えるかも知れない。


 「ま、まぁいいわ。これは私達二人からシンジへって事ね。」

 「碇君...」

 
 アスカは後ろに隠していたチョコを前に出すとレイと二人で持ってシンジに渡す。

 しかしシンジは受け取ろうとしない。

 
 「ちょ、ちょっとシンジ? どうしたの?」

 
 シンジの目からは知らずの内に涙が出ていた。
 
 先程まで、この二人から貰えないって事を考えていた所為だろうか。

 
 「あ、あれ? おかしいな、嬉しいはずなのに...」


 シンジはパジャマの袖で涙を拭いた。

 二人からチョコを両手で受け取ると、

 
 「ありがとう。」


 としっかりと微笑みながら言った。

 アスカは少しばかり目を背けながら


 「あ、あたりまえでしょう!いつもアンタには世話になってるし、それに好きだし...

 
 最後の部分は口篭りながら言う。


 「碇君...好き。」

 
 そう言いながらレイはシンジに抱き付こうとする。

 そんなレイを見て


 「ちょ、レイ! そんな事をするなんて! 羨ましいじゃない...

  ...もう、私も!!」

 
 そう言ってアスカもシンジに抱きつく。

 シンジは二人をしっかりと抱きとめると二人に腕を回す。

 そして先程まで考えていた愚かな事を二人に伝える。

 
 「ありがとう、二人とも。

  さっきアスカに今日が何の日か教えられてからずっと考えていたんだ。

  いろんな人からチョコを貰ったのに何で二人からは貰えないんだろうって。

  ああ、きっと二人から嫌われているんだなって思うしかなかった。

  でも今は違う。

  二人が作ったチョコレートが僕の手元に在るんだから...
 
  僕も好きだよ、二人とも...」


 そんな恥ずかしい台詞を言ったからかシンジの顔は赤くなっている。

 例の如くシンジの腕の中に居る二人も真っ赤になっている。


 アスカはシンジの胸に埋めていた顔を上げると


 「シンジ、ホワイトデーは三倍返しだからね!」

 「じゃあ、私は四倍で...」

 「ちょ、ちょっとレイ!?」


 シンジの腕の中で言い合いを始めた二人。
 
 二人ともシンジを離そうとはしない。

 シンジは言い合いをし始めた二人に対して苦笑をしている。

 
 そんな時、二人の頭上から爆弾が投下される。

 
 「そう言えば、ホワイトデーって何?」


 二人はピタリと話を止めた。

 よく考えてみるとバレンタインデーを知らないんだったらホワイトデーも知ってるわけがない...

 騒がしかった二人の心の中に寒い風が吹いたのだった。




 〜 終わり 〜






 <あとがき?>

 ども、ゴ〜ヤです。

 バレタインSSようやく出来ました。

 ってもう既に4日も経ってるんですけどね、バレンタインデーが終ってから(汗)

 
 書いてて思った事は最初のほうと最後では描写の雰囲気が随分と変わった様な気がしました。

 始めはシリアス調で書いてたような気がしたけど、途中で軽くなった様な...

 と、とにかく駄文には変わりはありません(汗)

 ちょっとしたおまけを下に書いておきます。

 まぁ、これも定番ネタだったりするんだけれどね...


 では、読んで下さった方。ありがとう御座いました。









 



 おまけ


 シンジが貰った大量のチョコだが

 バレンタインデーの翌日。

 アスカとレイの手により、ネルフ職員に渡されていった。

 手紙は流石にシンジが持っているけどね...




 〜 本当に終わり 〜



 
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送