逃げた先、迎える者

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 どこかで見たことのあるような、でもそこは知らない土地だった。

 目を覚ましたら見えたのは青い海。

 久しぶりに見た青い海に、何故か僕は涙を流した。

 一体何故僕がこんな所にいるのかも、

 『彼女』達が一体どうなったのかもわからない。

 ただ、僕というたった一つの存在が、魂…いや肉体ごと時空を超えてしまったのかもしれない。















 ……そんなことある分けないか。


 馬鹿馬鹿しい考えに僕はため息をつく。
 
 目の前に広がっているこの壮大なる青い海を見ていると、

 そんな自分の存在を否定するかのような事でさえもちっぽけに思えてくる。

 でもあそこから逃げ出したかったのも真実だ。
 
 それはそれで……良かったのかもしれない。

 
 とりあえず僕はなんでこんなことになったのかよりも、

 ただ見ているだけで心が洗われていく様な感覚を覚えさせるこの海を見ているほうが良かった。

 
 堤防を降りて砂浜に出てみる。

 今の季節はなんだろうか。

 今まで過ごした時期よりも過ごしやすい。

 もしかするとこの世界は四季があるのかもしれない。

 僕が居たところは一年中夏だったけれど… 

 そんな事関係ないや…
 
 今僕がここに居ることもどうせ向こうで何かがあっただけだろう。

 

 何かすることがあるわけでもないので砂浜で寝転んでみた。

 上を向いてみるとさっき見ていた海の青さとはまた違う青さの空が広がっている。

 なんか眠くなってきたな…

 これからどうしよう…

 



逃げた先、迎える者

By ゴ〜ヤ











 …なんだろう、暖かい…

 頬に何か暖かいものを感じて僕は目が覚めた。

 とりあえず身を起こして、頬に手をやる。


「……? 濡れてる?」

 
 何かが頬を伝ったような、そんな感じだ。

 一体なんだろうか… 

 なんなのか気になったので何か手がかりが無いか周りを見てみる。

 
 ……猫?

 黒い毛並みの、大きなリボンをした猫が僕のほうをじっと見つめている。

 何処から来たんだろう…

 今考えるべきではないことを思いながら黒猫に手をやる。

 
 毛並みに沿って黒猫を撫でてやる。

 黒猫は気持ちいいのかゴロゴロと喉を鳴らしている。

 なんか、久しぶりだなこういうの…

 久しぶりに感じた生き物の温もりに僕は感動する。


 でも、よく考えると何処から来たんだろうか。

 大きなリボンを付けているところを見るとおそらくどこかに飼い主がいるはず。

 猫は外によく出歩くって聞くけれど何故かそれとは違うような感じがする。

 一体なんだろうか… 


 黒猫はそんな僕の心配を気にしないのか僕にその身を摺り寄せてくる。

 その姿はどこか微笑ましいので僕は再び撫で始める。

 


 さてどうしようか…

 砂浜に座りこみ海をただ見つめ続ける学制服の中学生一人と傍らに存在する一匹の黒猫。

 遠目からみると一枚の絵になりそうな雰囲気だ。

 おそらく少年はそんな事微塵にも思っていないだろうが。

 実際堤防の横を歩いて行く人達は少年の醸し出す儚さに不思議な感覚を覚えていた。

 そしてこの人物もそうだった。


 (一体あの子達はなんなのかしら…)


 金色の髪をした女性はふと足を止めて堤防の向こう側、砂浜に座りこんでいる少年と猫の姿を見た。

 今すぐにでも消えそうなその背中を見て女性は不安を覚えた。

 身体は自然に動いていた。

 どこかに堤防を下りるための階段は無いか探し、見つけたらすぐに砂浜へと駆け下りる。

 走りにくい砂浜を駆けていく。

 
 何故だろうか遠くからこの少年を見た瞬間、何か謝罪をしなければいけないと思ったのだ。

 でも何故?

 見た事もない筈なのに…


 女性は知らぬ間に少年の傍らに佇んでいた。

 かなりの距離があったはずなのにあっという間だった気がする。

 息が上がっている。

 ずっと走る事なんて無かったから。

 久しぶりに走って身体がついていけないのね、そんな事を思いながら。




 辛そうな息遣いが聞こえてきた。

 見上げると金色の髪をした女性の姿が。

 目元には特徴的な泣き黒子が。

 見間違えるはずも無い。

 この女性はあの時死んでしまったはずなのに…

 今僕の目の前に立っている。

 目の奥が熱くなっていくのを感じる。

 頬伝っていく何かがある。

 でもそんな事微塵も気にならない。

 知っている人が、もう居なくなってしまったと思った人が目の前にいるのだから。




 目の前の少年がいきなり涙を流した。

 見知らぬ少年が、だ。

 どうすればいいのか分からない、同じぐらいの少年少女を普段から相手にしているというのに。

 この少年の涙は自分の心に深く入ってくる。

 確かに教員となってからはまだ日が浅い。

 それでも一応相談だってされた事はあるし目の前で泣かれた事もある。

 だがこの少年の涙だけは違うのだった。

 そして感じる既視感。

 一体なんだろうか…

 
 「どうかしたの…?」


 何も考えずに口から勝手に出てきた言葉。

 近くには来たけれど関ろうと思わなければ関らなくてもよかった。

 声を掛けた事により関わってしまう。
 
 
 「……いえ、なんでもありません」


 目の前の少年は流れ落ちていく涙を拭う事なくそう告げた。

 どこか諦めていたような表情で。

 
 「どうしてこんな所にいるの、あなた家は?」


 勝手に口から発せられる言葉。

 どうかしている。

 普段なら関らないのに。

 寄り添っている猫が気になるから?

 この少年が消えてしまいそうな感じがするから?

 ……謝罪?

 …………分からない。

 
 ただ自分の知らない所でこの少年は自分を知っているという事は察知できた。

 それができてどうこう変わる訳ではないのだが。


 「帰る家は……たぶんありません」


 返ってきた言葉は少年にとっては絶望。

 女性にとっては関係のない言葉。

 だが少年を見ているとなぜか放って置けなくなる。

 だからだろうか、こんな事を言ったのは…


 「だったら私の家に住まない? 一人ぐらいならなんとかなるわよ?」

 
 もちろん猫もね、と心の中で呟いて。

 心の何処かで自分がこう言うことが決まっていたのかも知れない。

 これにもっていく為に自分は少年の側に来て声を掛けたのではないか、今ではそう思う。

 
 「……いいのですか?」


 どこか、希望に満ちたような表情で女性の方を見上げる少年。

 知らない間に涙は止まっているようだ。

 
 「じゃあ決まりね、私の名前は赤木リツコ。よろしくね」

 
 立ち上がるように、握手するかのように右手を差し出す。

 ありがとう御座います、と一つ声を掛けてから少年は手を握って立ち上がる。

 
 「僕の名前は……碇シンジです」


 これが私とシンジ君の出会いだった…







 










 絶望の過去を経て出会った少年と女性。

 世界は違えど考えはどこか似ているかもしれない。

 少年が逃げた先は天国か地獄か。

 迎える者は誰か。


 物語は今始まる。










 


 後書き

 ども、ゴ〜ヤです。

 久しぶりのEVASS、リツコ×シンジです。

 試験前という事でテンパってますが気にしないで下さい。

 一応連載です。

 猫はいろいろ考えた結果某作品から使わせてもらいました。

 微妙にクロスになる可能性あります。


 では、今回はこの辺で…

 

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