逃げた先、迎える者

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第二話









 柔らかな月の光が入り込む部屋で一人の少年が寝ている。
 
 そしてその腕に抱かれているのは一匹の黒猫。

 苦しそうにすることもなく、素直に抱かれている。

 少年は今、夢を見ているのだろうか。

 時折寝言のようなものを発している。

 嫌な夢なのだろうか…うなされているようにも見える。

 一体どんな夢を見ているのだろうか…

























 目の前に広がった赤い海。
 
 ここはもしかしなくてもあの世界じゃないのだろうか…

 遠くにはあのEVA量産機の姿が…

 手を広げ、まるで十字架のようだ。

 
 そこにいる人物はたった二人。

 人が少ないのは当然と言えば当然かもしれないがシンジが最後に見た光景では、

 シンジ自身とアスカしか確認していない。

 しかし、シンジの目に映る人はそこでは見た事のない存在だった。


 一人は蒼い髪に、見覚えのある制服。

 おそらく前から見れば特徴的な紅い瞳が目に飛び込んでくるであろう。


 もう一人は黒のワンピースにこちらも同じく紅い瞳。

 そして髪の色も蒼色に近く、二人共どこか似通っている。


 シンジの目の前で繰り広げられる対話。

 こんな光景は知らないはずなのになぜだか知っているような感覚さえ覚える。

 ただシンジが知っている人物は一人のみ、もう一人の方は誰なのか検討も付かない。


 綾波レイ…

 それがシンジがよく知っているほうの人物の名だった…


 
 






 「貴女に頼みたい事があるの」

 「…………………」


 レイが自分よりも背の低いどこか似た少女に声を掛ける。

 しかし返事は無く沈黙が返って来る。


 「私には…… できないから…」

 
 黒の少女は何も言っていないはず。

 それなのにレイは何かを話し掛けられたかのように返答をしている。

  
 「だから……お願い。“あの人”にも言ってあるから……

  碇君のことを……」


 僕のことを……?

 一体なんで……


 シンジの疑問は尽きない。

 レイと話している少女は一体誰なのか。

 一体何を頼んだのか。

 何故レイにはできないことなのか。

 そもそもなんであの世界にシンジは存在することになったのか。


 与えられたものは疑問ばかりで、何一つ答えなど無い。

 
 この赤い海の畔で、

 少女二人、

 一体シンジに何をさせようというのか。

 それとも、

 ただ生かす為だけの行動なのか。

 何一つわからない。


 「何もしなくていいわ。

  あなたは碇君の傍にいてくれれば、

  逃げようとしたときは、好きなようにしてあげて。

  きっと貴女の“    ”にもその時出会えると思うから……」


 何だったのだろうか。

 シンジは確かに今までの言動はきちんと聞き取れていたのに、

 ある単語だけは何かフィルターのようなものがかかっていたかのように聞き取れなかった。

 何か釈然としないまま二人の様子をシンジは見続けることにする。

 
 だが、しかし。


 まるで夢が覚めてしまうかのように二人の姿が薄れていく。

 少しずつ……

 少しずつ……

 やがて、見えなくなる瞬間。

 レイの口が微かに動いたようにシンジには見えた。

 何を言ったのかは分からなかったけれど、なんとなく自分に言っていったものだと直感的に分かった。

 
 最後の微笑み……

 それが物語っていたような気もした……










逃げた先、迎える者

第二話









 
 「おかしいわね……」


 シンジが与えられた部屋に行ってみるといってから早1時間が過ぎた頃だろうか。

 この家の家主、赤木リツコはようやくシンジが現れない事に気がついた。

 久しぶりに料理に集中しすぎていたかしら……

 全く作らないというわけでもないが、誰かのために作る料理というのは随分久しぶりだ。

 今はいない同居人のために作ったこともある。

 今、あの子達は何処に行っているのかしら……

 何かが欠けてしまった、そんな少しの悲しみの空気を纏わせながらリツコは嘆息する。


 「そろそろ、出来上がるし…… 呼びに行ったほうがいいわね」

 
 呟くと鍋の火を消して、キッチンから出て行く。

 夜になったからか家の廊下は少し冷たく、誰もいない雰囲気を醸し出す。

 その空気にリツコは身を震え上がらせる。

 誰もいないという空気。

 昨日まで、いや今日の朝まではその中で生活してきたというのに、なんだか寂しい。

 シンジをこの家に連れてきたからだろうか。

 彼の姿が見えないと不安になる。

 
 一人で生きていけると思ったのは、気のせいだったわね。

 
 親の所から出て行って早いことでもう三年が経つ。

 永いわけではなかったが短かったというわけでもない。

 人の温もりなどいらないと思い家を出たわけだが、

 結局何処かで探している……

 





 「シンジ君、そろそろ夕食が出来るのだけど……?」


 シンジに与えた部屋の前にリツコは立つと、

 二度ほど拳でノックしながら部屋の中へと問いかける。


 しかし反応は無く、ただ沈黙が帰って来るだけだ。

 二、三度繰り返すが結果は同じ、返事は何一つ返ってこない。

 
 せっかく呼びに着たのに、もしかして寝ているのかしら。
 
 と、なんともいえない苛立ちが沸き起こってくる。

 そして同時に、もし中に彼が居なかったらという、不安な心、消失感が滲み出てくる。

 それは自分の本心なのか、それとも何処かへ置いてきてしまった物なのか。

 リツコにはそんな事を考える余裕は無かった。

 ただ目の前の現実という世界だけを見ていたからだ。

 いくら、何かを棄ててこようと。

 親の温もりが恋しかろうと。

 誰かが傍にいないと壊れそうになろうとも。

 結局彼女にとって大切な時間は現実(今)なのだから。

 
 右手で扉のノブを掴み、全てのココロを押し殺して扉を開く。





 

 心の中の緊張が消えていく。


 緊張を何処かへと追いやるは夜の乾いた風。


 合わせる様に揺らめくカーテン。


 少しだけ開いている窓。


 そこから差し込むは月の光。


 その光が照らすのは……


 一匹の猫と、一人の少年の姿……






  


 


 3話へ




 


 後書き


 ども、ゴ〜ヤです。

 HPも改装したところでの掲載です。

 前回よりは更新速度、速いですが……

 やはりまだまだですね……

 
 えっと、いろいろ考えた結果、どうやら本当に月姫とのクロスになりそうです。

 ただ暫らくはEVAサイドの話です。

 あと前回の後書きでリツシンと言いましたがおそらくALLになると思います。

 (一応リツコさんメインで行きますが……)


 と、まぁ結構長くなりそうですが、

 完結まで付き合っていただけたら幸いです。

 では…… 次回はもっと早い段階で出会いましょう。


 

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