柔らかな月の光が入り込む部屋で一人の少年が寝ている。
そしてその腕に抱かれているのは一匹の黒猫。
苦しそうにすることもなく、素直に抱かれている。
少年は今、夢を見ているのだろうか。
時折寝言のようなものを発している。
嫌な夢なのだろうか…うなされているようにも見える。
一体どんな夢を見ているのだろうか…
目の前に広がった赤い海。
ここはもしかしなくてもあの世界じゃないのだろうか…
遠くにはあのEVA量産機の姿が…
手を広げ、まるで十字架のようだ。
そこにいる人物はたった二人。
人が少ないのは当然と言えば当然かもしれないがシンジが最後に見た光景では、
シンジ自身とアスカしか確認していない。
しかし、シンジの目に映る人はそこでは見た事のない存在だった。
一人は蒼い髪に、見覚えのある制服。
おそらく前から見れば特徴的な紅い瞳が目に飛び込んでくるであろう。
もう一人は黒のワンピースにこちらも同じく紅い瞳。
そして髪の色も蒼色に近く、二人共どこか似通っている。
シンジの目の前で繰り広げられる対話。
こんな光景は知らないはずなのになぜだか知っているような感覚さえ覚える。
ただシンジが知っている人物は一人のみ、もう一人の方は誰なのか検討も付かない。
綾波レイ…
それがシンジがよく知っているほうの人物の名だった…
「貴女に頼みたい事があるの」
「…………………」
レイが自分よりも背の低いどこか似た少女に声を掛ける。
しかし返事は無く沈黙が返って来る。
「私には…… できないから…」
黒の少女は何も言っていないはず。
それなのにレイは何かを話し掛けられたかのように返答をしている。
「だから……お願い。“あの人”にも言ってあるから……
碇君のことを……」
僕のことを……?
一体なんで……
シンジの疑問は尽きない。
レイと話している少女は一体誰なのか。
一体何を頼んだのか。
何故レイにはできないことなのか。
そもそもなんであの世界にシンジは存在することになったのか。
与えられたものは疑問ばかりで、何一つ答えなど無い。
この赤い海の畔で、
少女二人、
一体シンジに何をさせようというのか。
それとも、
ただ生かす為だけの行動なのか。
何一つわからない。
「何もしなくていいわ。
あなたは碇君の傍にいてくれれば、
逃げようとしたときは、好きなようにしてあげて。
きっと貴女の“ ”にもその時出会えると思うから……」
何だったのだろうか。
シンジは確かに今までの言動はきちんと聞き取れていたのに、
ある単語だけは何かフィルターのようなものがかかっていたかのように聞き取れなかった。
何か釈然としないまま二人の様子をシンジは見続けることにする。
だが、しかし。
まるで夢が覚めてしまうかのように二人の姿が薄れていく。
少しずつ……
少しずつ……
やがて、見えなくなる瞬間。
レイの口が微かに動いたようにシンジには見えた。
何を言ったのかは分からなかったけれど、なんとなく自分に言っていったものだと直感的に分かった。
最後の微笑み……
それが物語っていたような気もした……
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